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「空飛ぶタクシー」いつ実用化? 世界で開発競争、25年大阪万博が一つの節目に

World Now 更新日: 公開日:
© Volocopter
ボロコプターがシンガポールで行った試験飛行。背景にあるのは、マリナー・ベイサンズ=同社提供

■先頭走るドイツベンチャー

世界の「空飛ぶクルマ」開発最前線 シンガポールで試験飛行

2019年10月、シンガポールを代表するリゾート、マリーナベイ・サンズの高層ホテルの前を、1台のeVTOLが横切った。卵形の機体の上には、王冠のような円形フレーム。18枚のプロペラがついている。小さなプロペラは、なんだか、ドラえもんのひみつ道具タケコプターを想像させる。商用化に向けた試験飛行だった。

最高時速は110キロも出るが、大きなプロペラが回るヘリコプターより音は格段に小さく、大都会でも騒音を気にせずに離着陸ができると期待されている。

つくったのはドイツのベンチャー企業、ボロコプターだ。「シンガポールでは2~3年の内に『空のタクシー』を事業化したい。私たちはかつてない挑戦をしている」。東南アジアの事業担当、ホン・ルンチュー氏(33)は力を込める。

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ボロコプターが開発した「空飛ぶタクシー」用の機体。電動で、小さな18枚のプロペラがついている=同社提供

11年創業の同社は、eVTOLの先駆的企業だ。16年には、ドイツ当局から有人飛行の許可を得て、初飛行に成功した。「安全基準を満たした機体をつくるのは簡単ではないが、私たちは当局と協働することで信頼を確立してきた」とホン氏は言う。日本でも25年の大阪万博での有人飛行をめざしている。

シンガポールでは、まずは遊覧飛行のような形で事業化をめざす方針だが、将来的には国際的な往来も視野に入れているという。

© Volocopter
ボロコプターが開発した「空飛ぶタクシー」用の機体の操縦席=同社提供

同社はどこが対象かは明確にしていないが、たとえば島国のシンガポールと隣のマレーシアとをつなぐ2本の道は、いずれも交通量が多く、渋滞で有名だ。両国を隔てる海峡は幅1キロほど。もし空を使って行き来できるようになれば、利便性は大きく向上し、移動の形を大きく変えることになりそうだ。

■気候変動と渋滞対策、高まる注目

都市部での新しい空の移動手段は「アーバン・エア・モビリティー」(UAM)とも呼ばれる。ここ5年で急速に立ち上がってきた分野だ。

大手コンサルティング会社のKPMGは19年、UAMの利用者が30年代に年間約1200万人、50年までに4億人を超える、との報告書を出した。

中でもeVTOLへの注目度は高い。背景にあるのは、ここでも気候変動だ。電動だから、飛ぶ時に温室効果ガスは出ない。離陸・上昇には大きなエネルギーが必要になるが、出発地と目的地との間を直線的に効率よく移動し、道路の渋滞を避けられる利点は大きい。

© Volocopter, Raphael Olivier
ボロコプターが、「ボロポート」と名付け、シンガポールで公開した「空飛ぶタクシー」用のターミナル(左手前)=同社提供

参入する企業も続々と出てきた。

「成田空港から東京駅まで約14分で」。こんな高速のeVTOLを売りにして、日本でのビジネスをもくろむのは、英国のベンチャー、バーティカル・エアロスペースだ。9月に大手商社の丸紅との提携を発表し、日本での市場調査に乗り出した。24年に欧州当局から安全性の証明を得ることをめざしている。

14年創業の中国のEHANG(イーハン)は、世界中で試験飛行をしており、今年6月には岡山県でも日本で初めて、屋外の試験飛行を成功させた。

世界中で開発競争が激化するなかで、日本発は18年創業のスカイドライブ(本社・東京)だ。昨年8月、屋内だったが初めて有人の試験飛行に成功。今年10月29日には安全性の証明取得の申請が、国土交通省に受理された。eVTOLの安全性証明の申請は初めて。めざすのは25年、大阪での事業化だ。

電動で制御するため、無人運転が実現する期待もある。ただ、課題は多い。技術的には、天気の急変や鳥との接触など、突発的な環境の変化への対応だ。ルートの管理や事故時の責任をどうするか、という規制づくりも必要になる。

日本でも、課題への議論が少しずつ進む。18年には国交省と経済産業省が「空の移動革命に向けた官民協議会」を設立。民間企業メンバーは29社に増えた。国交省の担当者は「大阪万博が事業化へのひとつのマイルストーンになるだろう」と言う。