「純度の高い1秒」シチズン流、物語のあるモノづくり

正面玄関前にて御園さんと武笠さん

シチズン時計 商品開発本部 商品開発部副部長の御園昭二さん(写真左)と、営業統括本部 オープンイノベーション推進室の武笠智昭さん(写真右)。

時計づくりは常に「進行形」であり「ゴール」はない ──

シチズン時計はこれまでにいくつもの「世界初」や「世界一」の技術を実現し、更新し続けてきた。その中でも、今、注目したいのが光発電エコ・ドライブで世界最高精度*の年差±1秒を実現した「ザ・シチズン Caliber 0100(キャリバー ゼロイチゼロゼロ)」。いずれも、高い研究開発力と、それを商品化する技術と生産体制が融合して完成したものだ。

分業が当たり前になった近年の製造業の流れのなかで、シチズンは一つひとつの小さな部品から完成時計まで自社一貫製造するマニュファクチュールのものづくりにこだわる。こうした姿勢が、世界に誇るメイド・イン・ジャパンのものづくりを守り、育ててきた。

年差±1秒を実現した「ザ・シチズンCaliber 0100」は、どのように開発されたのか?そこには創業101年目を迎えたシチズンの「時計会社の矜持」が込められていた。

産声が上がった瞬間の「純度の高い記憶」

本社中庭に座る武笠さん

子どもの誕生を機に、精度の高い時計の価値を再認識したという武笠さん。「時計としての精度を高めることが、お客さまの”純度の高い記憶”を残すことに繋がるのではないか」と話す。

扉の向こうから産声が上がった。「ザ・シチズンCaliber 0100」開発者の武笠智昭さんはその瞬間、腕時計を見た。

10時29分。

秒針は止まることなく時を刻み、“父親になった”瞬間は喜びに溶けて過ぎていった。

「その後、例えば仕事をしていてふと時計を見たときに、たまたま10時29分ということがあると、あのときの記憶が鮮明に思い出されるんです。もし、スマートフォンのデジタル表示で時刻を確認していたら、ここまではっきりと記憶に残らなかったかもしれない。そのときつけていた腕時計の精度が確かなものだったから、針が刻んだその瞬間がクリアに、純度の高い記憶として残せているのだと感じました」(武笠さん)

人生の中のほんの一瞬ではあるが、二度とない大切な時刻。子どもが生まれた瞬間に見たアナログ時計の文字板の映像も、大切な記憶の一部になっている。腕時計の開発に携わる武笠さんが改めて精度の高いアナログ時計の魅力を再確認した出来事だった。

「技術によって何を実現し、どんな価値をつくるのか。そう考えたときに、精度を極限まで高めることで、自分と同じようにお客さまが感じる“時”も、純度の高い記憶として残すことができるのではないか。それが時計としての価値になると考えました」(武笠さん)

シチズンは1975年に世界初の年差±3秒のクオーツ式腕時計「クリストロン メガ」を、2011年には光発電エコ・ドライブでの年差±5秒を実現し、商品化してきた。時計業界において、年差±5秒を超えることは非常に困難だと考えられてきたが、シチズンの開発チームはこれをさらに縮めて、年差±1秒の技術に挑むことになる。

±1秒を目指す ── 「ザ・シチズン Caliber 0100」ができるまで

年差1秒の腕時計

「ザ・シチズン Caliber 0100」 は2019年9月20日に発売予定。1年間に生じる誤差は±1秒。精度の高さを極限まで追求したクオーツ時計だ。

武笠さんら開発チームが心を一つにして目標と掲げた「年差±1秒」の時計。その開発には、乗り越えるべきいくつもの壁があった。

すでに年差±5秒が実現し、商品化もされている。年差±1秒を実現するには、それを改良して「±5秒」から「±1秒」に縮めていけばいいのではないか、と考えるかもしれない。だが、エコ・ドライブでの「年差±1秒」は、ほぼ誤差のない時計をつくることを目標に、これまでとまったく異なるアプローチを取らなければ実現しえないものだった。

「年差±1秒は、“年差±5秒の延長線上にあるもの”ではなく、“まったく新しい時計の概念”を提供したいというコンセプトから始まりました。そのために自分たちは何ができるか、何をすべきか。根本から新しく考え、さまざまな可能性を考えました。」(武笠さん)

クオーツ時計の中には、水晶(クオーツ)でつくった水晶振動子が搭載されている。水晶は電圧をかけると一定の周期で振動する性質を持ち、クオーツ時計はその振動を使って針をコントロールしている。

従来品で使用してきた水晶振動子は1秒間に3万2000回振動すタイプだが、この水晶の特性では年差±1秒の精度には届かない。そこで、水晶のカットが異なるタイプに変更し、温度や重力の影響を受けにくくすることで精度を追求した。

「マニュファクチュール」で蓄積した技術で乗り越えた壁

インタビューに答える武笠さんの写真

武笠さんは技術者として「ザ・シチズン Caliber 0100」の開発に携わった。

そこで立ちはだかったのが消費電力の壁だ。変更したタイプの水晶だと従来の250倍以上の超高振動となり、消費電力も著しく上がる。太陽光や室内のわずかな光を電力に変えて動き続けるエコ・ドライブを動力とするには、高い消費電力はネックとなった。

それでもエコ・ドライブでの実現にこだわったのは「せっかく1年に1秒しかずれない時計なのに、いつのまにか電池が切れて止まっていたのでは意味がない」と考えたから。だが、課題は山積み、開発は困難を極めた。

しかし、シチズンにはシチズンにしかない強みがある。40年間、エコ・ドライブを研究し、従来の音叉型水晶振動子で低消費電力化を実現した実績と省電力化のためのノウハウがある。水晶振動子を見極める確かな技術もある。それは自社で部品から一貫製造してきたマニュファクチュールだからこそ積み重ねられてきたものだ。

「この時計をシチズン以外で絶対につくれないかというとそんなことはないかもしれない。ただ、たまたま1個つくったというのではなく、安定した品質で生産できているのはシチズンのマニュファクチュールというしっかりとしたものづくりがあってこそだと思います」(武笠さん)

こうして完成した「ザ・シチズンCaliber 0100」は、1年間(365日)に3153万6000回も刻む秒数を1秒以内の誤差で刻み続ける、限りなく精度の高い時計。もし、どこかに少しでもズレが生じると実現しえない。時計の内部構造の一つひとつが研ぎ澄まされたものとなっている。

繋がることが常態化している時代に見直される価値

シチズン本社の時計の前にたつ御園さん

御園さんが注目するのは「あえてつながりを断った時間」を大切にする動き。「つながっていることが常態の今だからこそ、自分だけの時間を欲している現代人の価値観にふさわしい製品になると信じています」(御園さん)

スマートフォンの普及で「時間」を知るための手段も多様化している。シチズンはこれからの時計づくりをどのように捉えているのだろうか。アナログの腕時計はどのような意味を持つのか。商品開発本部 商品開発部副部長の御園昭二さんはこう話す。

「腕時計は実用品というよりも、嗜好品としての価値が重視されるようになりました。実用品としては、スマートウォッチに代表されるように常に“つながっている”製品が多数あります。一方で今、あえて“つながりを断った時間”を大切にするという動きがある。ザ・シチズンCaliber 0100は、つながっていることが常態の今だからこそ、自分だけの時間を欲している現代人の新しい価値観にふさわしい製品になると信じています」(御園さん)

マスではなく、個性がより際立つ時代。シチズンは「何かを特化させることで少人数にでもしっかりと届くものづくり」を続けていくと御園さんは話す。もともとシチズンは幅広い製品を展開してきたからこそ、多様な嗜好に対応できる土壌があるのだという。

インタビューに答える御園さんの写真

ザ・シチズン Caliber 0100」 は、2019年9月20日に発売予定。シチズンの確かな開発力と、マニュファクチュールのものづくりに支えられた時計の開発には、武笠さんのような若い技術者が多く参加した。

「時計は実用品であり他社より性能が優れていれば良いという考えもあります。それも間違いではないとは思います。しかし、われわれはプロダクトそのものに唯一無二の価値を見出せるような時計を提供し続けたいと思っています」(武笠さん)


*アナログ式光発電腕時計(自律型)として。2019年8月、シチズン時計株式会社 調べ。

「ザ・シチズン Caliber 0100」について、詳しくはこちら。

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