大阪メトロ谷町九丁目駅の5番出口から千日前通りを徒歩にて1分程。〈鮨 悠伝〉はビルの1階、知らなければ通り過ぎてしまいそうな間口2間ほどの店舗に暖簾を掲げる。店内もカウンターに8席とこじんまりしているが、2019年の開店以来旨い鮨を食べさせると評判の鮨屋である。
子どもの頃から料理をするのが好きだったという店主の西村悠也氏は、調理師専門学校卒業後に大阪にある老舗の高級鮨店や、京都にある外資系ホテルの鮨店で研鑽を積んで独立。
店にはお品書きや決まったコースはなく、あるのは握りと酒肴のみ。その日に仕入れた魚でおまかせ握りを構成するスタイルで、お酒を愉しむお客様にはお造りや焼き物などの酒肴をタイミングよく出してくれる。その握りや酒肴が盛られる器には人間国宝の染付や織部焼などが何気なく使われており、他にも樹齢160年の檜のカウンターなど西村氏のこだわりが細部にまで宿る。
鮪は豊洲市場から仕入れ、他の魚介類は毎日黒門市場へと通い、自信をもって出せる食材を自ら選ぶ。特に江戸前にこだわってはいないが旬の魚が持つ美味しさを最大限に引き出すひと手間は惜しまない。鮨の美味しさの土台となるシャリには岡山県産の米を使い、和歌山県の蔵元が醸造する赤酢と複数のお酢をブレンド。赤酢といってもその色は白く、出された握りの見た目は白酢のシャリそのもの。甘さは控え目ながら赤酢の持つ独特のコクあるシャリに仕上げられており、頬張れば口の中でほろりとほどけて絶妙にネタと絡む。
開業して半年後にコロナとなったが店を閉めることなく営業を続けた。当時はそれまで通ってくれたお客様に助けられたという西村氏。その有難さと、修業時代に教えられた“鮨は手で握るものではなく、心で握るもの”という言葉を大切にしながら板場に立つ。
敷居の高い店に感じられるかもしれないが、親しみある接客をしてくれるので初めてでも臆することなくどうぞ。そして〈鮨 悠伝〉の至福の鮨をゆっくりと堪能していただきたい。
