駿河湾から内陸に車で15分ばかり。ご紹介する〈シンプルズ〉がお客様をお迎えするのは、旧東海道の宿場町・丸子宿の奥に位置する泉ケ谷。ここは、かつて大名をはじめ文人墨客からも愛された隠れ里。国内最大級の伝統工芸施設「駿府の工房 匠宿」、古民家を改装した「泉ケ谷 工芸ノ宿 和楽」といった施設が軒を連ねるこの場所に、静岡の中心街から移転を遂げて約１年になる。
〈シンプルズ〉の「simple」とは、単純という意味ではなく、余計なものを削ぎ落としたエッセンスのこと。厨房に立つ料理人たちが大切にするのは、一つひとつの素材を活かしきること。シンプルが故に浮かび上がる個性、そして力強さだ。
少量多種のコース料理は、魚料理をメインにおまかせで。魚介の仕入れは、主に国内外の料理人が熱い視線を注ぐ焼津の老舗魚店「サスエ前田魚店」から。駿河湾や三河湾の海の幸、生命力あふれる地場野菜もふんだんに。フレンチをベースとしながらも、一つのジャンルでは語りつくせない創造性に富んでいる。ただ闇雲に高級食材を並べるのではなく、今日、この日に一番美味しいものをテーブルへ。たとえばイワシを使った一皿が、超高級魚よりも目と舌を虜にする—なんてことも、同店ではよくあること。
また、同店は、レストランのみのご利用はもちろんだが、前出の「泉ケ谷 工芸ノ宿 和楽」にご宿泊することで、オーベルジュのような使い方が可能だ。帰路の心配なくお酒を愉しめるのもうれしい限り。築百年を超える古民家を改修した同宿は、プライベートサウナを備えた客室が5部屋。手に取ってお使いいただける工芸品に囲まれて、消耗されていきそうな日常から離れるゆっくりとした時間は、忙しく流れる日々をリセットさせてくれるにちがいない。足の向くまま気の向くままに、丸子宿を散策するのもよいものだ。
山を背に、宿もレストランも深い緑に包まれるように建っている。春夏秋冬、晴れの日も雨の日も。その時々の自然を身近に感じながらのお食事や旅の時間を、大切な方とあなたも是非に。
